絵本『木箱の蝶』 - 木箱の中に絶滅危惧種の蝶の羽根が! -

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【データ】
・作品名: 『木箱の蝶』
・作者: 作/藪口莉那、絵/横須賀香
・出版社: BL出版
・発売年月: 2022年12月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦25cm × 横18.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 6:4 1ページ当たりの文字数は200字ほど
・対象年齢: 小学校3年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 部分的にルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 縦書き

【作者】
藪口莉那は、静岡県在住。日産童話と絵本のグランプリ優秀賞。
横須賀香は、埼玉県在住の絵画講師。主な作品に、『インディゴをさがして』『ちかしつのなかで』などで知られる。

【内容紹介】
「ぼく」がお父さんの部屋で見つけた木箱には、ウスイロヒョウモンモドキというという蝶の羽が一まいだけ入っていた。この蝶は、今ではずいぶんと数がへってしまい、めったに見られなくなってしまったらしい。その夜、夢で、さびしそうな蝶を見た「ぼく」は、画用紙と絵の具で蝶のなかまをたくさん作る。
【レビュー】
〈ストーリー〉
ウスイロヒョウモンモドキという絶滅が危惧される蝶が、物語のキーとなっている絵本。
「ぼく」とお父さんは、画用紙で作った蝶を夕日に染まった空中へ開け放つ。
幻想的なシーンは非常に魅力的で、示唆に富む。
人間のせいで場を追われ、絶滅が危惧されるまでになったウスイロヒョウモンモドキに、たくさんの仲間を作り天国へ送るようで、環境問題に対するアイロニーのようでもある。

音で始まり、音で終わる絵本で、父の部屋からハタリと音を聞いた「ぼく」は、ウスイロヒョウモンモドキの羽を見る。幻想的なシーンが続いたあと、終わりのシーンで金魚がポクリとはいた泡が、水面でぱちんとはじける。現実に引き戻されるような印象で、物語の不思議な魅力を引き立てている。

〈絵と文〉
文はレトリックが美しく、リズムも魅力的。比喩も多く、一般的な絵本と比べると高年齢向け。ただオノマトペも多いし熟語も少ない工夫があるので、読むのに苦労する子は少ないと思う。ふりがなや漢字の基準からみても、小学三年生以上くらいを想定して作られているようだ。

絵は、金魚、ウスイロヒョウモンモドキ、夕日と、オレンジが映えるイラストが美しい。
細かいとこだけど、親子が作ったカゴいっぱいにある画用紙の蝶は、作るにしてはあまりにも量が多すぎるため、空想世界を表しているように読める。

〈キャラクター〉
「ぼく」は、蝶に仲間を作り、飛び立つ様子を見守ったのに、金魚のイチ子を狭い水槽に閉じ込めて、一匹で飼い続けている。ちょっと残酷なようだけど、金魚のイチ子と蝶は対比されて描かれている。
金魚と蝶の対比は生と死だったり、現実と虚構のメタファーにも読める。

また、蝶の寂しさに気付く「ぼく」は、〈母〉がいないと思われる作中の語り手の孤独を表しているようにも読める。「ぼく」が、蝶と自分を重ねたと解釈すれば、仲間を作り開け放つ様子は孤独を救い自立を助けているようで、蝶のように多くの仲間と関わりながら自立し家を出る道と、金魚のように家で過ごす道かの選択を迫られる未来を表しているようだ。
様々に解釈できる点もこの絵本の魅力だと思う。

〈製本と出版〉
割と珍しい縦書きの絵本、物語の雰囲気に合っている。明朝体で読みやすいが、文字が背景の絵と重なるページが一部にある。

【評点】


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