力の強さは関係なく、ありのままがよいと伝える絵本『ライオンのこころ』

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【データ】
・作品名: ライオンのこころ
・作者: 文/レイチェル・ブライト、絵/ジム・フィールド、訳/安藤サクラ
・出版社: トゥーヴァージンズ
・発売年月: 2021年12月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 30ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横22cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は70字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
レイチェル・ブライトは、イングランド、ドーセット在住の絵本作家。翻訳絵本は本作が日本で初。
ジム・フィールドは、パリ在住のイラストレーター。他に『おじいちゃんがのこしたものは…』『ロスコーさんともだちにあいにいく』など。
安藤サクラは東京都出身の俳優。本作が初の翻訳絵本。

【内容紹介】
驚くほどに小っちゃくて飛んでも跳ねてもおーいって呼んでも、誰にも気づいてもらえないネズミの暮らしはとても大変。一方、ライオンの暮らしはまるっきり違って、体も声も大きいライオンは、みんなの憧れだった。ある日ネズミは、自分も吠えることができればみんなに気づいてもらえるとひらめき、ライオンに会いに行く。
【レビュー】
〈作品の主題〉
ネズミは恐る恐るライオンに会いに行ったが、ライオンはネズミを見てとても怖がりおびえてしまう。そんなライオンを見てネズミは一緒に楽しい時間を過ごそうと提案する。ネズミは伝え合うことができると吠えなくていいと気付く。
体の大きさや、ちからの強さは関係なく、誰もがネズミの心とライオンの心を持っていると伝える絵本。

〈ストーリー〉
飛んでも跳ねても誰にも気づいてもらえないネズミは、自分自身を変えるために冒険に出るがその際、「ぼくが かわらなければ なんにも かわりはしないでしょ?」と読者に語りかけるように“名言”を伝える。
一見この絵本のメッセージに感じるが、結果的にネズミはライオンと出会うことで、誰もがありのままでいてよく、体の大きさや、ちからの強さは関係ないと知るため、こちらが真のメッセージであり、優れた構成に感じた。
当初の表現では絵本らしい小さく弱い「ネズミ」と、強くたくましい「ライオン」が描かれている。強さを見せびらかすのが大好きなライオンは“有害な男らしさ”の象徴のようにも感じる。その後の展開で勇敢な冒険に出るネズミと、小さなネズミにおびえるライオンとで正反対な性格に移り変わる。
そんなふたりが心を通わせ、“ねずみの こころ”と“ライオンの こころ”をみんな持っているはずと気づく終わりは、ステレオタイプを逆手に取った表現で美しい。
ネズミとライオンが仲良くなった理由と、ライオンがネズミを恐れた理由がもう少し丁寧に描かれているとなおよかったと思う。

〈絵と文〉
絵はフォーカスの使い方がうまく、小さなネズミから見るライオンの大きな絵はとても迫力がある。小さなネズミが草木や動物たちに埋もれてしまう絵は少しの切なさとユーモアがある。
擬音が多めな文章で、韻を踏んでいている箇所が多い。例えば“カラカラ かわいた かぜに すなぼこりが キラキラ まっています” “ひらめきは ときめきに”などだ。楽しくリズミカルに読めるし、翻訳絵本だが、ぎこちなさがなく読みやすい。

〈キャラクター〉
ネズミは、ほかの動物の大きな足に踏まれてしまうこともあり、しっぽを怪我して終始包帯を巻いている。少し痛々しく、心にくるものがある。

ライオンのすみかには、動物の骨が数多く散らばっている。ライオンは当然肉食動物で、この表現がライオンの“怖さ”と、ネズミの冒険のドキドキ感を演出しているのは明らかだが、この絵本で描かれている動物たちがともに暮らす世界観ではちょっとグロテスクに感じてしまった。

〈製本と出版〉
吠えたいと願うネズミはどうすればいいのかじっくり考える。その際イラストで、“吠え方入門”と書かれた本を手に取る様子が描かれているが、ひらがなで描くべきだったと思う。漢字にすることで「専門書」感が出るのは分かるが、背景も含めて漢字無しに統一した方が読者が手間取らずに済むはずだ。

特徴的なフォントや、漫画風な吹き出しがときおり挿入されている。少し読みづらさはあるが読書にメリハリが出て楽しく読める。
文章が背景の絵と重なる箇所があるが、読みづらいページはない。

【評点】


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