絵本『わたしがいじわるオオカミになった日』 - いじめ加害者から助ける側に移る大切さ -

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【データ】
・作品名: わたしがいじわるオオカミになった日
・作者: 文/アメリ・ジャヴォー、絵/アニック・マソン、訳/ふしみ みさを
・出版社: パイインターナショナル
・発売年月: 2022年8月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 24ページ
・サイズ: 縦28cm × 横25cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は60字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
アメリ・ジャヴォーは、ベルギーの作家、心理学者。
アニック・マソンは、ベルギーのイラストレーター。
ふしみみさをは、埼玉県生まれの翻訳家。主な作品に、『リゼッテうそをつきにいく』『わくわくどうぶつアパート』など多数。

【内容紹介】
クラスで席が隣同士だったエマとエルザ。エマはエルザと仲良しだと思っていたけど、ある日エルザは「オオカミ」に変身した。エルザは、毎日どんどんいじわるになっていった。エマはお腹がぎゅうっと重くなり、笑うことも、遊ぶことも、食べることもできなくなってしまう。そしてある日、エルザは別の子をいじめるようになる。

【レビュー】
〈ストーリー〉
いじめ問題をテーマにした絵本だけど、いじめられた理由を具体的に描かず、唐突にいじめが始まることにリアリティを感じたし、被害者に「原因」を作らないところもよく感じた。

いじめを受けて語り手のエマはお腹が痛くなるが、医者に診てもらっても健康に思われてしまうシーンも、心の病やストレスからくる苦痛は、本人が話さないとなかなか伝わらず、当人にとっては難しくても、苦痛の原因を保護者や先生に相談する必要性を描いているように感じた。

いじめ被害者だった語り手が、加害者へと移る描写がある。新たな被害者の子にひどい言葉をぶつけたあと、語り手は、強くなったような、いい気分だったと振り返る。割りと生々しく書かれている。
「分かりやすい」絵本ではあまり見ない描き方だけど、現実にはあることだろうし、その後の語り手が加害を悔み、母に相談し、被害者を救う描写も含めると、とても大事な表現だと思う。

いじめられた被害を両親に話せなかった語り手が、加害のことも含めて母に話すシーンは、相談することの重要性と、加害と向き合い助ける側に移る大切さが描かれている。
ひとつ気になったのは、一言でいいので、語り手が加害したことを被害者に謝る描写があっても良かった気がした。

〈絵と文〉
絵は親しみやすい。舞台は秋から冬に移行する季節の学校で、基本的にいじめる側が寒色系の色合いで、被害者が暖色系の服を着ている。語り手が加害者へまわる日は、青い服を着て、ひどい言葉をぶつける。
その晩、「ママの あたたかい むねに くっつい」た、語り手と母親の二人は、赤みがかった服を着ている。
翌日、被害者を助ける行動に出る語り手は赤い服を着ており、被害者の手を取りながら、葉のない木から、紅葉が彩る木のもとへ移動する。
季節の温度、木々の色合い、色から感じる印象を組み合わせた表現が、素敵に感じた。

文章は全体的に非常にいい。
特に好きな文に、語り手がオオカミおとこの本を読み、変身すればいじめられないで済むかもしれない、と考える際の、
「あさ めが さめると、やっぱり わたしは わたしのまま。
のろまで とんまで、ともだちが いないまま。
あの いやな かたまりも、 やっぱり おなかに はいったまま。」
という箇所で、脚韻を踏んだ文が切なく、心に残る。

「とりまき」とか「トンマ」とか、小さな読者にはおそらく聞き慣れない言葉もあるけど、絵を見たり、前後の文脈で大体のことは分かるようになっているので、特に問題はないし、むしろ物語のキーとなるような、読書の緩急になる。

〈キャラクター〉
女性と思われる登場人物が多いけど、変な役割語もないし、語り手の心情で進む物語だが、無理に子供らしくもないし、大人すぎもしない、等身大な感じで描かれている。
ただ、加害者に吊り目が多かったり、オオカミを悪役にして白い飼い犬と対比させたりするのは、ちょっとステレオタイプにも感じた。

〈製本と出版〉
『わたしがいじわるオオカミになった日』というタイトルはとても秀逸に感じた。
まずひと目見て内容に興味が湧くタイトルだし、語り手が「オオカミになった日」は、母親にいじめ被害と加害してしまった事実を打ち明けた日でもある。
語り手は翌日にいじめ被害者を助けるが、それでも、「いじわるオオカミになった」ことが当人にとって最も印象深く、また悔いる出来事でもあるんだということが、タイトルに現れているように感じた。

裏表紙に書かれている出版社公式の対象年齢が「3歳から」なのは、多くの読者を獲得したい狙いや、読み聞かせを念頭に置いたのかもしれないけれど、この内容の絵本ではさすがに幼すぎると感じた(ただ、amazonの商品紹介では、対象年齢は6歳からとなっている)。当サイトの基準では、6歳からとした。

【評点】



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