選挙と投票は日常とともにある身近な存在『きょうは選挙の日。』

 
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【データ】
・作品名: きょうは選挙の日。
・作者: 作/塚本やすし
・出版社: 汐文社
・発売年月: 2022年6月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横22cm
・絵と文の比率: 下記〈絵と文〉欄参照のこと
・対象年齢: 小学校3年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
塚本やすしは、東京都出身の絵本作家。主な作品に、『にじゅうおくこうねんのこどく』『ぼくはほんやさんになる』がある。

【内容紹介】
男の子はおしゃれをして、お父さんとお母さんと三人で投票所に行く。お父さんとお母さんは投票用紙に、投票したい立候補者の名前を書いて、投票箱に入れた。そのあとは、みんなでおいしいものを食べに行く。日常にある選挙を描いた絵本。

【レビュー】
〈作品の主題〉
ある家族が選挙に行った一日を描き、選挙というものが身近な存在であることを伝えている。
また、選挙の手順を説明したり、投票所の仕組みや選挙のきまりごとも解説しており、今まで選挙に行ったことのない有権者や、今後行く子どもたちへの入門書ともなっている。
〈ストーリー〉
ストーリーは小さな男の子の目線で進む。絵は独特な温かみがあって、とても親しみやすく描かれている。

投票後、親子はレストランに行きパフェを食べ、公園を歩き、幸せそうに暮らす人々を見ながら帰る。
これらのシーンは選挙を“日常の延長”ととらえ、気負わずに行っていいことを表しているのと、選挙の結果次第で平和が左右され、“日常の延長”が変わりうることを伝えるもので、二つの意味で解釈できる巧みな表現に感じた。

〈絵と文〉
物語は家族三人でお出かけするシーンから始まるが、男の子が着替えたり、投票所まで行く過程での家族のやり取りは、とても易しい文章で書かれている。

しかし、投票所に着くと、文章量が大幅に増え、使われる用語も難しくなる。選挙についての情報や、受付係、名簿対象係、投票用紙交付係、投票立会人、投票管理者の説明、選挙のきまりなどが丁寧に解説されている。

選挙に初めて行く人や、今後選挙権を持つ読者にとって入門書、教科書的な価値があると思うし、その意義は伝わるが、一方で、誰をターゲットに書かれているのか分かりづらい。
序盤に描かれている親子の会話は、ルビ付き漢字が使われているものの、未就学児向けの絵本のような印象を受けるが、投票所でのシーンは、多少砕いた表現ではあるとはいえ、少なくとも小学校3年以上の読者でないと十分に理解するのは難しいと感じる。

どっちつかずな印象を持ったので、終始幼い子どもの視点で両親と選挙に行った日の気持ちを描くとか、反対に高学年ぐらいの視点で選挙の仕組みやきまりを学ぶ絵本にするとか、読者をある程度絞った方が読みやすくなったと思う。

〈キャラクター〉
登場人物は主に男の子とその両親で、特に印象に残ったのは、父親が子どもに対して、“自分の、そして、きみたちの、明るい未来に投票した”と伝えるシーン。

投票というものは気軽に行っていいものだけど、一つの票が国を変え、未来を変える重みのあるものだと教えている。親子を真上から描いた構図の絵もあって、吸い込まれるような感覚で、選挙の持つ力と可能性が伝わり心に残った。

〈製本と出版〉
本の大きさはふつう。文字の大きさはページによって大きく異なる。文字が背景の絵と重なり、読みづらい箇所が一部にある。

【評点】


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