孤独を楽しむアイデアと友情の温かさ『さむがりやのスティーナ』

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【データ】
・作品名: さむがりやのスティーナ
・作者: 作/ラニヤマモト、訳/朱位昌併
・出版社: 平凡社
・発売年月: 2021年11月
・出版形態: 紙の本と電子書籍
・ページ数(作品部分): 39ページ
・サイズ: 縦20.5cm × 横17.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は50字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ラニヤマモトはアイスランド在住の絵本作家。主な作品に、『ぼくのいるところ』、『ぼくのじかん』がある。
朱位昌併はアイスランド在住の翻訳家。

【内容紹介】
冬の間は絶対に外に出ない、寒がり屋のスティーナ。本を読んだり、寒さをしのぐ発明をしたりして家にこもる。スティーナは外で遊ぶ気はなかったけど、でも冬が深まるにつれて、だんだんと興味ががわいてくる。吹雪の日、扉をたたく音がしたため、戸を開けると、二人の子どもが家に入り込んできた――。
友情とその思いが、あたたかさを感じさせることに気がつく、寒がり屋のスティーナの物語。

【レビュー】
〈作品の主題〉
スティーナの寒がりは人付き合いと解釈できる。孤立している、というよりかむしろ、“孤立を選んでいる”ような読者にとって、スティーナの孤独を楽しむ様子は共感できるだろう。結果的にスティーナは、外に出て冬の寒さとは違う“友情の暖かさ”を知るが、特に説教臭いものではなく、単にスティーナの選択といった描かれ方がいい。

また、多くの社交的な人にとって、引きこもりや対人恐怖を抱える人は、信じがたい者のように感じられるかもしれないが、この絵本では、本人の生き方を尊重したり、時間をかけて社会復帰を支援することの大切さを物語っている様にも感じる。

一方、孤独を楽しむ様子も存分に描いていて、スティーナの寒さをしのぐための様々な発明品は、読んでいて楽しい。

〈ストーリー〉
スティーナはより寒くなってくるにつれ、ベッドから離れられなくなってしまう。白くて大きい羽根布団をかぶって生活するようになるが、外に出るために布団ごと加工してダウンジャケットにするアイデアの実行は、読んでいて開放的な気分になる。
読んでいるだけで寒くなってくるような絵本なのに、そのシーンでは、心地よい爽やかさに変わる。非常に魅力的な場面だ。

〈絵と文〉
絵はシンプルだが魅力的。特に孤独を楽しみ、友情に興味を持つスティーナの表情は、よくある絵本的な可愛らしさではない、シニカルな個性がある。また、ラストシーンの表紙の絵と対比されている、マフラーから漏れる笑顔は、してやったりとひそかに笑っているようでとてもいい。

作品序盤に描かれるスティーナの性格などを紹介するシーンにおいて、
“ふゆの あいだ スティーナは ぜったいに そとに でなかった。なにが おきても よいように はやめに じゅんびを しておいた。” 
とあるが、この箇所、少し前後関係が分かりづらかった。一文目は、今までのスティーナの行動で、二文目はこれから先の冬への対策だろう。二文目のはじめに「ことしも」をつけるとか、「ぜったいに そとに でたくなかった」にした方がわかりやすかったと思う。

また、スティーナがポリッジを食べるという描写がある。ポリッジとは、朝食でよく食べられるオートミールと温かい牛乳で作ったお粥のようなものだ。
何でもかんでも広く読まれるために和訳にすると、作品の雰囲気が損なわれるし、子どもの読者は九割ほど知っている言葉で構成されている本を読むことで、残り少しの知らない言葉を前後の文脈や絵を見てなんとなく理解できるようになり、語彙を身に着けていくはずだから、それらの特徴が特別絵本の欠点に直結するわけではないが、ポリッジとだけ書かれていてもよく分からない読者も多いだろうから、注釈があった方がよかった。

〈キャラクター〉
スティーナの冬をしのぐための数多くのアイデアは、製作の工程がイラスト付きで説明されており読んでいて楽しい。スティーナは、冷蔵庫から離れて中のものを取るために、マジックハンドのような物を自作したり、ベッドから離れずに食事するために、全自動トースターなるピタゴラ装置を作っているのがとてもユーモラスで、割と真面目に製作しているところが面白い。

スティーナはペンを左手で持って文書を書いているが、別のページでは右手にスプーンを持って食事をしている。少し気になったが特に解釈のしようもなく、意味はなさそう。描いたあとバランスを取るために絵を反転させたのかもしれない。

〈製本と出版〉
小さいサイズの絵本。文字の大きさはふつう。背景に合わせて黒または白の字で書かれているが、読みづらいと感じる箇所はない。

【評点】


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