切り絵で描かれる古事記と日本書紀を組み合わせた物語『白鳥になった王子』

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【データ】
・作品名: 白鳥になった王子
・作者: 切り絵、作/早川鉄兵
・出版社: 能美舎
・発売年月: 2020年1月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 37ページ
・サイズ: 縦21.5cm × 横30.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 5:5 1ページ当たりの文字数は200字ほど
・対象年齢: 小学校4年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 部分的にルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 縦書き

【作者】
早川鉄兵は金沢市生まれの切り絵作家。本作が初めての書籍。

【内容紹介】
白鳥の姫と結婚し、幸せに暮らしていた王子は、ある日、刀も持たずに「山の神」の元へ力試しに出かける。白鳥の姫の懇願も聞かず、行く先々で出会う動物たちの忠告にも聞く耳を持たず、とうとう王子は山の神と相対する。

【レビュー】
〈作品の主題〉
イノシシの姿をした山の神と対峙した王子は、山の神に雹を降らされ傷を負い、命からがら山をおりる。自分の行いを悔いた王子は、泣き崩れる。気づくと王子の体は白鳥になっており、どこまでも飛んで行った。
美しい切り絵とともに、傲慢な王子の冒険と敗北、それによる大きな変化を描いた作品。

〈ストーリー〉
ストーリーはヤマトタケルの神話の翻案と思われる。
古事記では、悪い神がいると聞いたヤマトタケルが、慢心があったか草薙の剣を置いて伊吹の山に攻め射ちに行く話がある。その後、山中で大きな白い猪と出会ったヤマトタケルは、猪を神の使いと勘違いするが、実際は山の神そのものであり、返り討ちに合う。山の神が降らした激しい雹に打たれ傷を負ったヤマトタケルは、辛うじて故郷に戻る。といった話だ。

また、日本書紀にはヤマトタケル(日本武尊)は白鳥となることが書かれている。
つまりこの作品は古事記と日本書紀の神話を組み合わせた物語である。
おごり高ぶって人(神)をあなどる態度で接する王子は、敗北をきっかけに白鳥へと生まれ変わるが、この作品では王子の結婚相手の聡明な姫を白鳥としているため、同じ種類となったということは、王子は反省し、以前と性格が変わったことが示唆されている。
なお古事記や日本書紀では、ヤマトタケルの配偶者は、宮簀媛(美夜受比売、みやずひめ)で白鳥ではなく女性であるため、王子の変化は、古事記と日本書紀にない、この絵本独自の工夫で、前向きなメッセージとなっている。

〈絵と文〉
切り絵は非常に美しい。登場する動物たちの迫力もある。芸術的で長いこと見ていても飽きない。切り絵であるためイラストの全てが一枚の絵として繋がっており、それが他の絵本にない特徴で魅力になっている。

文章は神話を描いた物語によく合ったもので、切り絵同様、作品の雰囲気と世界観を、彩り形作るものとなっている。

〈キャラクター〉
繰り返し表現は絵本によくあるが、この絵本にも多い。王子は山でカモシカ、イヌワシ、キツネ、アナグマ、クマ、シカに会うが、この6頭の動物たちに山の神にはかなわないと忠告される。細部が違うとはいえ、似たような表現が6度も繰り返されると読んでいて退屈で、残念ながらキャラクター性にひねりがなく、イラストを優先させたように感じる。

〈製本と出版〉
割と珍しい縦書きの絵本。文字の大きさは小さめ。ルビが振られていない漢字も多く、小学校6年間で習わない漢字も頻出するため、対象年齢はそれなりに高い。当サイトでは小学校4年~とした。

【評点】


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