コロナウィルス拡大後を描いた理想的な世界『ありがとうのうたをうたえば』

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【データ】
・作品名: ありがとうのうたをうたえば
・作者: 作/マイケル・モーパーゴ、絵/エミリー・グラヴェット、訳/すぎた ななえ(杉田七重)
・出版社: 小学館
・発売年月: 2021年10月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 27ページ
・サイズ: 縦30.5cm x 横24cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は70字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
マイケル・モーパーゴは、イギリスの詩人、児童文学作家。代表作に『アーニャは、きっと来る』『戦火の馬』など。
エミリー・グラヴェットは絵本作家、イラストレーター。主な作品に、『シリルとパット ともだちになろう』『きれいずき』がある。
すぎた ななえ(杉田七重)は東京都生まれの英米文学翻訳家。他に、『サヨナラの前に、ギズモにさせてあげたい9のこと』『ルーミーとオリーブの特別な10か月』など多数。

【内容紹介】
ある日、悲しい気持ちでクロウタドリに「かなしくてたまらないんだ。どうしてだろうね」と話しかけると、クロウタドリはいいことを思いついた。
クロウタドリは庭の木のてっぺんから、キツネに歌を歌って聞かせる。キツネは、森に走り、シカに知らせる。シカは、カワセミに、カワセミはカワウソに、歌のハーモニーは生き物たちみんなに届いていく。
やがて地球上の生き物たちが、地球に感謝するありがとうの歌を一緒に歌い出す。

【レビュー】
〈作品の主題〉
地球に対する"ありがとう"の気持ちを動物や植物、最後には人間も含めて、心を一つにして歌う作品。地球環境を考え、地球に暮らす仲間を大切にする思いと地球に感謝を伝える物語。

〈ストーリー〉
ありがとうの歌を通じて、みんなを応援する。歌のハーモニーが地球に鳴り響き、喜びが世界の隅々まで満たされる――。実に平和的な絵本だが、ちょっと理想的すぎて薄っぺらい。

『にんげんに また しあわせに なってほしいから』と言うクロウタドリの言葉は世界中の新型コロナ感染拡大を意識したセリフだろう。しかし、非常に安っぽく感じるし、どうしたって言わせている人間がちらつく。

また、歌がテーマの絵本で、その歌は、"ありがとう"を伝えるものだと説明はあるが、歌詞は一切提示されていない。語り手の人間とクロウタドリは会話しているので、歌詞があってもいいと思う。作品で描かれているのは、ただ世界中の動植物が"ありがとう"の歌をうたうというシーンだけだ。

〈絵と文〉
歌がテーマの絵本ではあるが、文体がいまいちリズミカルに読めない。もう少し工夫した方が、この絵本に合っていたはずだ。

物語の始まりは冬。描かれている絵は冬のシーンが多いが、せっかく世界を股にかける絵本なのだから、南半球の国にいる動植物も描けば更にこの絵本を魅力的にしただろう。

文章は、だ・である調で書かれている。語り手が中年の男性とはいえ、平和を伝える牧歌的な物語のため、ですます調のほうがよかったんじゃないかと感じた。

〈キャラクター〉
終盤の沢山の人が歌をうたうシーンでは、老若男女、様々な人種が集まっているが、事前に一切の説明がなされていないため、あまり主体的とは言えず、残念ながらとりあえず動員された駒の様に見える。

またこのような世界中の人が一堂に会するといった場面では障害を持つ人のイラストも描くべきだろう。一方、動物たちはそれぞれの特徴がうまく捉えられて描かれており、躍動感がある。大変楽しそうに歌をうたっていて、読んでいて心地いい。ただ前述した通り歌詞がないため、メインとなるクロウタドリに至ってもキャラクターとしての魅力が薄い。

〈製本と出版〉
大きいサイズの絵本。文字の大きさはふつう。背景の絵と文字が重なり読みづらいと感じるページが一部ある。

【評点】


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