絵本『森のなかの小さなおうち』 - ふかい森の奥にある、小さな小屋に住む家族 -

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【データ】
・作品名: 森のなかの小さなおうち
・作者: 作/エリザ・ウィーラー、訳/ひらおようこ
・出版社: 山烋、工学図書
・発売年月: 2022年8月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 38ページ
・サイズ: 縦23cm × 横26.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は60字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
エリザ・ウィーラーは、ミネソタ州在住の絵本作家。他に、『最後のゲーム』がある。
ひらおようこは、兵庫県在住。本作が初めての訳書。

【内容紹介】
わたしは、マーベル。6歳の女の子。パパは天国にいってしまったから、ママと8人のきょうだいは、ふかい森の奥にある、小さな小屋に住むことになった。わたしたち家族は、きらきら光る雨を見つめ、森の小道を歩き、木苺やブルーベリーをあつめてジャムを作ったりして、楽しく暮らす。

【レビュー】
〈ストーリー〉
語り手のマーベルは、9人家族。パパが天国にいってしまったため、新しい家に住み始める。
父親を失って傷を負った家族と、ぼろぼろな家が重なって読める。季節が進むに連れ、少しずつ活気を取り戻していく家族と、暮らしやすいようきれいに整備されていく家が描かれていて、読んでて満たされていくような気持ちになる。
マーベルは、古くてぼろぼろな、これから暮らす家を初めて見て「つめたくて からっぽみたい」と不安になる。
そんなマーベルにママは、「もしかしたら たからものが みつかるかもよ」と、励ます。実際には、分かりやすい「宝物」なんて家にはないけれど、マーベルは、日常の中で宝物を見つけていく。
それは、「水晶みたいに きらきら ひかる雨」だったり、宝石のような木苺やブルーベリーの実だったりする。
物語は春を迎えて、森に花々が咲き、家が文字通り彩られていく。そして、マーベルは、家族と小屋で暮らすことを宝物と捉える。
物語は、貧困や格差も描いている。お店のショーウィンドウに並ぶ、彼ら家族では買えない高価な商品を、憧れながら眺める様子は心打たれる。
また、幸せそうに子どもたちが眠る中、亡くなった夫を思ってか、大変な暮らしを憂いてか、悲しげに空を見上げる母の様子も描かれている。
「貧乏だけど幸せな暮らし」といった安直な物語だけで終わらないところが、この作品の魅力だと思う。
〈絵と文〉
絵は、自然豊かな様子が魅力的に描かれている。物悲しい導入で、色合いも少しくすんだように描かれているが、物語が進むにつれて色合いが鮮やかになり、マーベルたち家族の心情が表現されていると読める。
「つめたくて からっぽみたい」と表現された家が、温かく賑やかになる様子が描かれている。

文章は、読みやすくかつ、ちょっと古い時代を描いた絵本の魅力を損なわないような、上品さがある。一方で、マーベルたちの会話には親しみやすさがあって楽しく読める。

ひとつ気になったのは、マーベルたちが住む家を、「黒いシートで おおわれた小さな こや」と表しているところ。
黒いシートとはなんだろうと気になり原文を読むと、tar paper(タールペーパー、タールを染み込ませた防水用の厚紙)と書かれていて、ちょっと馴染みがないが、「黒いシート」という言葉で、それほど立派なものではないことが表現されていると納得した。

〈キャラクター〉
冒頭に描かれている、亡くなった父の絵が入ったロケットペンダントを、物語が進んでもマーベルが常に身につけている様子は、心が温まる。

ひとつ屋根の下に暮らす家族は合わせて9人で、絵本にしてはちょっと人数が多く、紛らわしく散在している印象もあるけど、支え合いながら暮らしていく様子が描かれていて、最後にはまるで自分も家族に参加したような心地で読める。

〈製本と出版〉
文字の大きさは少し小さめ。背景の絵と重なる箇所があって、少し読みづらい部分がある。
表紙裏の地図は、細かいところまで詳細に描かれていて、見ているだけでワクワクするような魅力がある。

【評点】


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