『きらきらさがし』 - みんなにある、大切な頑張った証を見つけよう

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【データ】
・作品名: きらきらさがし
・作者: 作/新井悦子、絵/さこ ももみ
・出版社: 岩崎書店
・発売年月: 2022年8月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横22cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は100字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
新井悦子は、長崎県在住の絵本作家。他に『きょうはおうちでいちごがり』『だいすきのしるし』などで知られる。

さこ ももみは、広島市在住の絵本作家。主な作品に、『だっこでんしゃ』『うさぎでうれしい うさぎはうさぎ』など多数。
【内容紹介】
あっちゃんは、逆上がりの練習をしているけど、なかなか上手くいかない。手にはマメもできた。すると、お母さんが、「がんばっているひとにはみんな<きらきらじるし>があるんだよ」と、教えてくれた。あっちゃんの手のひらにできたマメも、<きらきらじるし>。あっちゃんは、家族の<きらきらじるし>を探してみることにする。

【レビュー】
〈作品の主題〉
お兄ちゃんのどろんこのユニフォームや、鉛筆で書いた後の右手の汚れ。長距離トラックの運転手のお父さんの眼鏡の日焼けあと……。
<きらきらじるし>は頑張った証。日常にある、小さいけれど確かにある、大切な輝きを発見する物語。
〈ストーリー〉
物語は、学校の鉄棒で逆上がりの練習をする、二人の子どものシーンから始まる。手のひらにできたマメを、お母さんに<きらきらじるし>だと教えてもらい、ほかの<きらきらじるし>を探す物語だが、ちょっと痛そうなマメや、ユニフォームの汚れなどのネガティブなことを、<きらきらじるし>と、とらえ直す展開は、読んでてとても前向きで穏やかな気持ちになれる。

なお、物語は、たくさんの<きらきらじるし>を見つけて、「その後」は描かれていない。安易に、逆上がりができるようになりました、とかの結果を描かないところに、作品の魅力があると思う。

この手の失敗を肯定する絵本は割と見かけるけれど、この作品は綺麗事にしすぎずに、努力の過程で生まれた、頑張ったしるしの「きらきら」は、決してそれが、常に成功にいたるものではないと示しているようだ。時に失敗の道をたどったり、報われれないことがあっても、残った<きらきらじるし>は、無駄にはならないと伝わる。

作風は全体的にちょっとノスタルジックな雰囲気だが、おばあちゃんとのスマホでのやり取りが<きらきらじるし>のひとつになっていたりと、現代的な部分もある。
〈絵と文〉
長崎県が舞台の絵本のようで、登場人物の話すセリフは地域の方言で「そっか。よかとよ」とか、「まっとってね」と自然に用いられていて、その話者じゃなくても、なんだか親しみがわく表現で描かれている。

家族の食事では、長崎の伝統工芸品、みかわち焼の食器が用いられていて、玄関には、古賀人形の『阿茶さん』も飾られている。
(玄関に置かれた古賀人形の『阿茶さん』)


また、表紙裏(見返し)のイラストは、平和像の近くにある「天主堂の見える丘」からの景色が元になっているようだ。
(見返しのイラスト)

(「天主堂の見える丘」からの景色)

他にも長崎名物の「カギ尻尾」の猫(長崎では全国の2倍)が描かれていたりと、さまざまに長崎を表すイラストがちりばめられているけれど、長崎の要素は作品の展開に影響はなく、また、物語はほとんどが家の中で進行するため、背景が描かれることも少ない。
気づけた人だけが楽しめる小さな工夫といった感じだが、せっかくならさらに地域性を含んだ物語も見たいなと思った。一方で、読者の出身や住んでいる地域に関わらず、作品を楽しめるようにしているともいえる。

文章は「とろんと とろけた ゆうひ」など、豊かな表現も用いられていて、読書の緩急になるような、奥行きのある魅力がある。

〈キャラクター〉
長距離トラックドライバーのお父さんは、家に帰る際、もみじのイラストの描かれた紙袋を持っている。のちのページでおばあちゃんが、さり気なくもみじ饅頭を食べているため、お父さんは、広島の名産品のもみじ饅頭を帰りにお土産として買ってきたと推察できる。
広島から長崎へは西へ向かうため、お父さんは、冒頭から描かれている強い西日にあたりながら、帰路についたことがうかがえて、日焼けした肌の理由付けともなっている。
直接文章で言及されていない部分を、絵を読み解くことで楽しむことができる絵本で、とても素敵な表現に感じた。

また、語り手のあっちゃんは、「ら」から始まる言葉と、「り」から始まる言葉を繰り返し練習していることから、あっちゃんは小学一年生で、舞台が春であると解釈できる。(作品の色合いや語り手の服の色が秋っぽいけど、背景の木々は新緑なので多分あってる)
〈製本と出版〉
本の大きさはふつう、文字は大きくて読みやすい。

なお、冒頭の二人の子どもが逆上がりの練習をするシーンで、後に描かれている木の影がなかったり、子どもが持っているはずのランドセルがなかったりとちょっと気になる部分がある。(ランドセルは学校の中に置いてあるのかもしれないけど)

【評点】


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